Albatross on the figurehead 〜羊頭の上のアホウドリ


 BMP7314.gif 歌声のしずく BMP7314.gif


     8



本年度の聖なる泉の宝珠を授かった声の主は、
史上初の4年連続、聖歌隊のさん…と定まって。

 「、おめでとうvv」
 「素敵だったわよvv」

教会や学校のお友達におめでとうの拍手や抱擁をいただき、
その向こうからは、
神事を観に来たお客様がたからの喝采や掛け声が飛んで来て。
そんな人たちの中、
視野へ入った途端にこっちも嬉しくなるお顔があったのへ、
ついつい彼女の側からもパァッと明るい笑みがこぼれる。

 「凄げぇぞ、vv」
 「芯の通った素晴らしいお声でしたね。」

満面の笑みとはこういうのだと言わんばかり、
お口も大きく開けての笑い声にて
ハッピーシャワーを降らせてくれてるようで。
なんかこっちまで嬉しくなるから不思議だなぁvv
ブルックさんも、頭の上へまで手を挙げての、
やんやと拍手して下さるのが嬉しかったし。
ゾロさんはそこまで判りやすい様子は見せなかったけれど、
にやって笑い方が何とも精悍でカッコいいったらvv
嬉しい嬉しいとこっちも両手振ってお返しをして見せたけど、
残念、これ以上客席へは降りられないんだな。

 「あれ? 、どしたんだろ。」

そんな彼女だと気づいたらしいルフィが小首を傾げたのへは、
お隣に陣取ってた、もうすっかりとガイド役のアンダンテさんが、
うんうんと歌姫さんへの相槌を打って見せてから、

 「彼女はね、歌姫に選ばれたからには、
  今宵の神事までその身を清めての、
  一般の皆様とは触れないで過ごさにゃあ ならなくなるんだな。」

 「ほえ?」

今ひとつ理屈にピンと来なかったらしいルフィの横で、
ブルックさんが手套に覆われた手を挙げた。

 「あ、知ってます。神聖な身になられるんですよね。」

やっぱり音楽に詳しいお人ならしいブルックさんには、
こういうことへも馴染みがあるようで、

 「どんな宗教であれ、神様と人との間には、
  聖なる存在への敬愛という形での線が引かれているものでして。」

今宵の神事で より神様に近づいての宝珠奉納をなさるのが、
歌姫に選ばれたさんのお役目なので。
出来るだけその身を清める必要があり、

 「同時に、お役目が終わるまでは
  俗世界の存在と接してはいかんのです。」
 「え〜〜。」

何だそりゃと言わんばかりの不平顔になるのがまた、
判りやすいんだからルフィったらvv
でもでも、ご説明いただいたその通りで、
アタシはこれから神官の皆さんと一緒に、
神殿の下層部にある洞窟みたいな入江に入って。
そこにある、やはり白木の社にて、
聖なる泉のお水を使って身を清めの、
ハーブを焚いて香りを染ませた衣装に着替えの、と。
少々堅苦しいあれやこれやに身を置かなきゃなんない。
それもあるから、
この催しって微妙に苦手というか、
あんまり全開では喜べないんだよな。
でもでも、
じゃあ参加しなきゃいいってのをどうしてだか選べない。
ヘルメデスの親父みたいな胡散臭いのに
目をつけられるよな運びになるばかりじゃない。
応援に来てた聖歌隊の仲間の中にも、
こっそり“もう辞退すりゃいいのに”って言ってる子がいるの、
実は知ってるし。
それでも…何でだろね?
あがり症なの抑えつけてでも、結果として出場しちゃうのは。

 「さあ、様。」

あ、ははは、はいっ。
そうだった、
岩戸の儀式までは、アタシまで“様づけ”されんだった。

  と、いうワケで。

じゃあねと小さく手を振って、
最初に舞いをご披露下さった巫女さんに手を引かれ、
白木の舞台をしずしずと立ち去る歌姫だったのでございます。





     ◇◇◇



宵に後半の部が執り行われる、正統なる儀式への式次第は、
入り江の社にて密やかに進められ。
部外者の皆様は、その時間まで散会し、
島のあちこちの催しを見物したり参加したりして過ごす。
どの歌姫候補も素晴らしくいいお声だったのを誉めそやしつつ、
テラスでお茶というお人も少なくはなく。
優勝は逃した候補の皆様が、
やっと緊張を解いて、それぞれなりのお祭りを楽しもうと、
家族や応援の方々の待つところへ戻ってくるのが迎えられる中、

 「……。」
 「あら、そちらから来て下さったのね。」

お揃いの白いサンドレスから着替えた、
飛び入り組の美女二人もまた、
皆々様から並々ならぬ注目をされていたものの。
会場から出たところにて、
物陰から注がれる視線があったのへ、黒髪のお姉様がまず気がついて。
あのあの、おきれいなお姉様、
これから一緒にお茶でもなんて、
声をかけようと思ってたらしい男衆らが、敢え無く素通りされての、
きれいな足取りで彼女らが向かったのは。
表通りでもなけりゃあ、どこぞかの店へと連なるアプローチでもない、
商家と商家の間に過ぎない細い小道だったのだけれど。

 「……優勝は逃したようだが。」

その奥には、少しばかり開けた空間があり、
左右の建物に遮られていた陽がいきなり降って来て、
視界を突然白く灼く。
酒場の裏手、酒樽やビンの整理や洗濯をする場所なのだろ、
井戸や物干しのある殺風景な中庭で。
そんな中に待ってた相手は、
いつものジャケットは脱いでのシャツ姿。
ズボンを吊るサスペンダーが、
微妙にシャツの柄に見えるのは、
引かれ過ぎての細く絞られているからか。
酒場とこの区画の夜中の一切合切を仕切っておいでの存在は、
時と場合と相手によっては、
昼間も威容をその身に染ませておくものであるらしく。

 “う〜ん。一応 渋いトーンじゃあるが。”

威嚇したい訳ではないからかしらねと、
この級ではおっかなさを感じないのが却って拍子抜けだなんて、
余裕の感慨を胸中で転がしていたのがナミならば、

 「ええ。でも、契約は果たしますわ、勿論ね。」

僅かほど伏し目がちになったロビンが、
意味深に微笑ってから、

 「あんなおっかないエスコートを差し向けなくとも、
  ちゃんと参りましたのに。」

自分たちの斜め後方へ、ちらと流した視線の先にいた男。
会場だった舞台の裏口、
彼女らを鋭い視線で睨めつけていた、
こちらさんのボディガードのタリオーヌとやらが、
やはり無言で、陽に白く晒された建物の壁の間近に、
まるで何かの陰のように、気配を消して立っており。
まずはの契約、
出来れば今年の歌姫にどちらかが選ばれる…というのを逃したがため、
信用されないのはまま仕方がないけれどと。
その、形のいい口元へ薄く笑みを滲ませてから、

 「でも、
  昨日も申し上げたように、あなたの本当に欲しているものは、
  今宵の神事で岩戸へ放り込まれてしまう宝珠の、
  しかも機能だけ、なのでしょう?」

そうと言葉を付け足した彼女が、
少しばかり大きめに空いていたジャケットの胸元から、
白い指先で摘まみ出したのは。
うずらの玉子くらいの大きさの、
表面がつるんとしたガラスの膜に覆われた、
この島では聖泉の底にごろごろと沈んでいるものの、
今日のこの日だけは特別扱いな白い石、だった。





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 *間が空いてしまっててすいません。
  涼しかったり蒸し暑かったりの乱高下に振り回されて、
  何だか集中が途切れたみたいで。
  そういうときに“企みもの”って難しいんですよね。
  ただでさえおバカなのに……。(む〜ん)
  あーだこーだのメモばっか溜まるから困ります。


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